不整脈原性心筋症の病態をヒトiPS細胞由来分化心筋細胞により解明
Modeling Reduced Contractility and Impaired Desmosome Assembly due to Plakophilin-2 Deficiency using Isogenic iPS Cell-Derived Cardiomyocytes
Stem Cell Reports, January 20, 2022
https://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/S2213-6711(21)00655-X
不整脈原性心筋症は、主にゲノム遺伝子異常による心筋の障害から、致死性不整脈による突然死や心不全に至る重篤な疾患群として定義されます。細胞と細胞をつなぐデスモゾームを構成する遺伝子の変異は、不整脈原性心筋症の発症原因となることが知られ、なかでもPKP2遺伝子変異は、最も高頻度に同定されています。不整脈原性心筋症では、不整脈とともに心筋収縮力の低下を来しますが、その詳細な分子メカニズムは明らかでなく、その病態を再現し得る精密なヒト疾患モデルの確立が必要でした。
今回、我々は、不整脈原性心筋症症例からiPS細胞を樹立し、ゲノム編集技術を用いて、発症原因であるPKP2遺伝子変異を精密に改変した細胞を作製しました。作製したiPS細胞セットをシート状に拍動する心筋細胞に分化させ、機能を解析した結果、PKP2タンパク質の減少に伴い、収縮力が低下すること、デスモゾームの形成異常が生じることを見出しました。さらに、ゲノム編集を用いて、生きた細胞においてデスモゾーム動態を可視化するiPS分化心筋細胞を構築しました。この細胞にアデノ随伴ウイルスによるPKP2遺伝子補充を行い、デスモゾーム回復過程を可視化するとともに、収縮力が改善することを見出しました。不整脈原性心筋症における遺伝子治療概念を実証したことから、今後、不整脈原性心筋症に対する新たな治療法開発が期待されます。