分子心臓病研究グループ

分子心臓病研究グループ ポンチ絵2

グループ概要

 私たちは心不全を含めた心臓病態における、さまざまな生命現象に分子レベルからアプローチすることでその根幹に迫り、ひいては創薬に結びつく分子標的を同定することを目標としています。私たちは心不全に関わる機構としてアポトーシスやネクローシスなどの細胞死に着目した研究を行う過程で、オートファジーと呼ばれる酵母からほ乳類まで広く保持されている細胞内分解経路に特に注目した研究を展開しています。オートファジーは日本が研究の最先端を走っており、大隅良典先生が2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞されたことで、より広く知られるようになりました。

 私たちはこれまで、オートファジーが心筋細胞の恒常性維持や血行動態ストレスへの適応、加齢性変化、減負荷後の心肥大退縮において心臓保護的機能を果たすことを明らかにしてきました(Nature Medicine 2007, Autophagy 2010, BBRC 2013)。その際にオートファジーによって障害ミトコンドリアが分解されることが病態形成に重要であると考えられています。

 ミトコンドリアは外来共生物と考えられており、そのDNAは細菌やウイルスのDNAと同様に自然免疫系を介して炎症を惹起すると報告されています。オートファジー過程において、ミトコンドリア独自のDNAが分解不全により遺残することで心筋炎および心不全を来たすこと、そのメカニズムにToll-like receptor 9が重要な役割を果たしていることを明らかにしました(Nature 2012, BBRC 2019, JACCBTS 2019)。

 ミトコンドリアは融合と分裂によってその形を大きく変化させる動的なオルガネラです。その形態変化は傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー性分解と強い関わりを持ちます。私たちはBcl-2-like protein 13と呼ばれる分子が、ミトコンドリアの形態変化を誘導し、さらにミトコンドリア特異的なオートファジー(マイトファジー)の受容体として機能すること(Nature Communications 2015)、またそのマイトファジー開始メカニズムの一端(Cell Rep 2019)を報告しました。

 最近では、フェリチン特異的オートファジーであるフェリチノファジーも鉄代謝の制御を通じて心不全の発症に関与していること(eLife 2021)、さらには心不全におけるβ1アドレナリン受容体のダウンレギュレーションに関わるメカニズムの一端を解明しました(Sci Rep 2022)。さらに、現在は非アポトーシス性細胞死や収縮機能が保たれた心不全(HFpEF)に関する研究も行っています。国立循環器病センター・心不全病態制御部とも合同ミーティングを通して密接に連携しながらこれらの研究を進めています。今後は、我々が得たこれらの知見をいかにヒトへ適用していくかという点にも重きを置いて、さらに研究を発展させていきたいと考えています。

研究目的および内容

研究目的

心不全の心臓病態発症進展に関わる分子機構を明らかにし、新たな心不全治療を開発することを研究の目的としています。研究テーマについてはこれまでの研究成果との連続性を考慮しながら、新しいテーマにも取り組んでいます。

研究内容

  1. ミトコンドリアDNA分解不全が起点となるToll様受容体を介する炎症反応を標的とした新規心不全治療の開発
  2. ミトコンドリアの融合・分裂が及び分解が心臓病態に及ぼす影響の検討(マイトファジー関連分子として我々が同定したBcl-2-like protein 13の機能解析)
  3. ミトコンドリア分解に関わる新規分子の同定および機能解析
  4. 非アポトーシス性細胞死に関わる分子の心臓病態に於ける機能解析
  5. 収縮機能が保たれた心不全(HFpEF)モデルマウスの構築と関連分子機構の解明
  6. フェリチノファジー及びフェロトーシスの薬物による制御

メンバー紹介

【ラボメンバー】
種池 学(助教)
村川智一(助教)
小林春子(大学院生)
杉原隆太(医員)
西田博毅(大学院生)
栁川恭佑(大学院生)
峯健太朗(大学院生)

【連携研究者】
大津欣也(国立循環器病研究センター・理事長)
山口 修(愛媛大学大学院医学系研究科・教授)
中山博之(循環器内科学・招聘准教授)
彦惣俊吾(循環器内科学・准教授)
武田理宏(医療情報学・教授)
大宮茂幹(国立循環器病センター 心不全病態制御部・部長)
上田宏達(堺市立総合医療センター・医長)

主要論文

  1. Rubicon-regulated beta-1 adrenergic receptor recycling protects the heart from pressure overload.
    Akazawa Y, et al.
    Sci Rep. 2022 7;12(1):41.
  2. Iron derived from autophagy-mediated ferritin degradation induces cardiomyocyte death and heart failure in mice.
    Ito J, et al.
    Elife. 2021;10:e62174.
  3. Alpha-Klotho is a novel predictor of treatment responsiveness in patients with heart failure.
    Taneike M, et al.
    Sci Rep. 2021;11(1):2058.
  4. Comprehensive autophagy evaluation in cardiac disease models.
    Kaludercic N, et al.
    Cardiovasc Res. 2020;116(3):483-504.
  5. Cytokine mRNA Degradation in Cardiomyocytes Restrains Sterile Inflammation in Pressure-Overloaded Hearts.
    Omiya S, et al.
    Circulation. 2020;141(8):667-677.
  6. Administration of a TLR9 inhibitor attenuates the development and progression of heart failure in mice.
    Ueda H, et al.
    JACC Basic Transl Sci. 2019;4:348-363.
  7. Ablation of Toll-like receptor 9 attenuates myocardial ischemia/reperfusion injury in mice.
    Kitazume-Taneike R, et al.
    Biochem Biophys Res Commun. 2019;515:442-447
  8. A Mammalian Mitophagy Receptor, Bcl2-L-13, Recruits the ULK1 Complex to Induce Mitophagy.
    Murakawa T, et al.
    Cell Rep. 2019;26:338-45.
  9. mTOR Hyperactivation by Ablation of Tuberous Sclerosis Complex 2 in the Mouse Heart Induces Cardiac Dysfunction with the Increased Number of Small Mitochondria Mediated through the Down-Regulation of Autophagy.
    Taneike M, et al.
    PLoS ONE 2016;11:e0152628
  10. Bcl-2-like protein 13 is a mammalian Atg32 homologue that mediates mitophagy and mitochondrial fragmentation.
    Murakawa T, et al.
    Nat Commun. 2015;6:7527
  11. Mitochondrial DNA that escapes from autophagy causes inflammation and heart failure.
    Oka T, et al.
    Nature. 2012;485:251-5
  12. Inhibition of autophagy in the heart induces age-related cardiomyopathy.
    Taneike M, et al.
    Autophagy. 2010;6:600-6
  13. The role of autophagy in cardiomyocytes in the basal state and in response to hemodynamic stress.
    Nakai A, et al.
    Nat Med. 2007;13:619-24

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